第18回日本運動疫学会学術総会および優秀発表賞のご報告
2015年6月20日(土)、21日(日)の両日に中京大学名古屋キャンパスにおいて、第18回日本運動疫学会学術総会が開催されました。
過去5年間の学術総会では日本体力医学会の前日に同地で開催してまいりましたが、今回は初の試みとして開催時期を日本体力医学会とは
ずらして6月に、かつ会期を二日間に延長して開催いたしました。会期を延長したことにより、贅沢に時間を使ってリラックスした雰囲気で、
よりエキサイティングで有意義な学術総会を開催できたと感じております。
学術総会のプログラムとしましては、一日目に種田理事長の挨拶の後、学術総会会長企画シンポジウムにおいて「身体活動促進に関する
世界の動向」をテーマとして、井上茂先生(東京医科大学)からは「LANCET Physical Activity Observatoryについて」、武田典子先生
(工学院大学)からは「身体活動政策のためのPolicy Audit Tool(PAT)の役割と今後の展望」、田中千晶先生(桜美林大学)からは
「子どもの身体活動促進のためのActive Healthy Kids Report Cardについて」をそれぞれ講演いただきました。そしてFiona Bull先生
(University of Western Australia)からは、ISPAHが本年設置した若手研究者及び専門家のネットワーク「Early Career Network」
を対象として行った第1回ウェブセミナーのうち、Fiona Bull先生が行った講演「Are we making a difference yet?」を放映させて
いただきました。4名のシンポジストの先生方から現在、世界規模で実施されている身体活動促進のための先駆的取組みを紹介いただき、
我が国での活用方法についても貴重な示唆をいただくことができた講演でした。
続いての特別企画シンポジウムでは、「東京オリンピック・パラリンピック・レガシーと 身体活動・運動・スポーツの推進−
学術は
どう貢献できるか」をテーマに、まず布村幸彦先生(公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会副事務総長)
に基調講演として「スポーツには世界と未来を変える力がある」について講演いただきました。「大会開催基本計画」を基にした
大会組織委員会における開催準備状況について報告いただき、2020年以降も日本や世界に様々な分野のレガシーを残すことができる
大会とするための取り組みを紹介いただきました。その後、同テーマにおいて、間野義之先生(早稲田大学)からは「オリンピック・
パラリンピック・レガシーとは」、Adrian Bauman先生(Sydney University)からは「What is the evidence for physical activity
promotion before and after Olympic/Paralympic Games– expectations for Tokyo 2020」<Skype出演>、鎌田真光先生
(ハーバード大学、国立健康・栄養研究所)からは「東京オリンピック・パラリンピックに向けて運動疫学の果たす役割」について
それぞれ講演いただきました。2020年東京での五輪開催を通して、身体活動・運動・スポーツの普及、推進が図るために研究者や運動
専門家がどのように貢献すればよいのか、その方法を考えるきっかけとなる貴重な機会となったと強く感じました。Adrian Bauman先生
には、Skypeでの参加という慣れない形式にも関わらず、積極的に討論に参加していただき、非常に興味深いご意見を伺うことができました。
また、その際に大久保善郎先生(Neuroscience Research Australia,日本学術振興会)にはAdrian Bauman先生のサポートとして多大なる
ご協力をいただきましたこと感謝申し上げます。
一日目の最後に、事務局からの「おもてなし」として懇親会を開催させていただき、参加者のみなさまが食事を楽しみながら相互に交流を図り、
活発な討議や意見交換を行いました。また懇親会の会場においてイブニングセミナーとして、中田由夫先生(筑波大学)には「介入研究による
エビデンスの「つくる・伝える・使う」の促進に向けた基盤整備」、笹井浩行先生(筑波大学)には「運動疫学セミナーの評価に関する調査研究」
についてそれぞれ講演いただきました。日本運動疫学会として今後推進する二つのプロジェクト研究を紹介いただくことで、会員のみなさまからの
ご意見を聞くことができ、さらに今後ご協力をいただくための良い機会となったと感じました。
二日目は、最初に基調講演として岡浩一朗先生(早稲田大学)に「座位行動の科学」について、近年の座位行動研究を振り返りながら、
これまでの動向や今後の課題について紹介いただきました。
続いての学術委員会企画の教育講演@では中田由夫先生(筑波大学)に「健康づくり介入研究の実施方法および留意点」というタイトルで、
健康づくり介入研究における疫学的研究手法を活用した研究計画の作成および研究実施方法について講演いただきました。
さらにセミナー委員会企画の教育講演Aでは小熊祐子先生(慶應義塾大学)に「I-Min Lee先生に学ぶ身体活動量と疫学研究〜特に女性に着目して〜」
について講演いただきました。運動疫学分野における世界的に先導する研究者の一人であるI-Min Lee先生から学ばれた貴重な研究内容を中心に、
特に女性における身体活動と生活習慣病の関連について講演いただきました。
すべての講演において、参加者のみなさまが強く興味関心を持って聴講され、実際に「とても興味深い講演でした」との声を多くの方からいただく
ことができました。
一般発表では、今回30演題という過去に前例がないほどの多くの応募をいただき、予想以上の演題数であったため、発表形式をポスター発表
(24演題)と口頭発表(6演題)に分けて行いました。一般発表30演題のうち、通常形式の「一般発表」は25演題、「2〜3枚スライド・1つの話題」
は2演題、「研究デザインあるいは研究計画の発表」は3演題でした。
ポスター発表は、ランチョンポスター発表として、昼食を摂りながら行う形式としリラックスした雰囲気でしたが、そんな中でも活発な質疑が展開
されていました。口頭発表は、事前に理事長、副理事長、学術委員に審査されて
選ばれた6演題で行い、こちらも質の高い発表と質疑が展開されました。
ポスター発表の優秀発表者には笹井浩行先生(筑波大学)が、口頭発表の優秀発表者には菊池宏幸先生(東京医科大学)、岩佐翼先生(東京医科大学)、
鵜川重和先生(北海道大学)、鈴木宏哉先生(順天堂大学)、および安部孝文先生(身体教育医学研究所うんなん)が、最優秀発表者には北湯口純先生
(身体教育医学研究所うんなん)がそれぞれ受賞されました(下記参照)。受賞されました先生方、おめでとうございました。
今回の学術総会では、新たな取り組みとして開催期間を二日間に延長し、かつ日本体力医学会とは時期をずらし開催しましたが、予想を上回る多くの方に
参加していただき(参加者総数162名)、みなさまのご協力により、エキサイティングで有意義な学術総会を開催することができました。
来年度の学術総会は、井上茂先生(東京医科大学)が会長となり、東京で開催されます。現時点では会場や開催日は未定ですが、来年も、みなさまの
積極的なご参加、ご発表をよろしくお願い致します。
(第18回日本運動疫学会学術総会事務局 山根 基)
(北湯口純先生からのコメント)
この度は「地域全体を対象とした5年間の身体活動促進のプロセス評価〜RE-AIMモデルによるポピュレーション戦略の評価〜」という発表に対し、
栄誉ある賞をいただき大変ありがとうございました。本研究はこれまで、雲南市の皆さんや共同研究者の先生方をはじめ、大変多くの方々のご支援
により実施してきました。今回の受賞は、本研究にこれまで関わってくださった皆様とともに頂いたものと受け止めております。今後は、5年間の
研究成果を詳細に分析して整理し、市全域へと介入を広めていく研究へと発展させていく考えです。今回の受賞を励みに、地域の皆様とともに
さらなる地域全体への運動普及に取り組んで参りたいと存じます。学会及び本大会に関係するすべての皆様に心より厚く御礼申し上げます。
雲南市健康福祉部身体教育医学研究所うんなん 北湯口純
表彰式(北湯口純先生)
受賞スピーチ(北湯口純先生)
(笹井浩行先生からのコメント)
この度は「運動疫学研究に活用可能な最近の解析モデル〜Isotemporal Substitution Model〜」という発表に対し、栄誉ある最優秀ポスター発表賞
を賜り、誠にありがとうございます。最近私自身が興味を持っていたトピックを、「2〜3枚のスライド・1話題」のカテゴリでの発表でしたので、
賞を頂けるとは全く想像しておらず、大変驚いております。本発表にあたり、共同演者で筑波大学医学医療系の中田由夫先生には、多大なお力添えを
いただきました。この場を借りて、感謝申し上げます。
ご紹介したIsotemporal Substitution Modelは「ある変数を等量の別の変数に置き換えた時の、アウトカムへの影響を推定する手法」です。
その使用例が世界的に増えている一方で、国内での使用例は皆無と思われます。このモデルは、従来のモデルに比べて解釈がしやすい点が特徴で、
ヒト集団の健康増進を志向する運動疫学分野に最適のモデルと考え、今回話題提供させていただきました。本話題提供が、会員の先生方のご研究に
少しでも参考になれば幸いです。
今回の受賞を励みに、ますます研究・実践活動に邁進したいと考えております。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
最後に、心遣いに満ちた素晴らしい学術総会をご準備いただきました大会長の種田行男先生をはじめ、事務局スタッフの皆様に感謝申し上げます。
※所用により受賞式を欠席させていただきましたこと、申し訳ありませんでした。
筑波大学医学医療系・日本学術振興会 笹井浩行
受賞者の発表の様子(笹井浩行先生)
表彰式(共同演者の中田由夫先生)
|