現代において、運動や身体活動の不足は主要な死亡原因である非感染性疾患(Non-communicable Diseases)の罹患や老化あるいはQOLの低下に関する重大な危険因子であることが、これまでの運動疫学研究によって明らかになってきました。今後はこれまでの運動疫学研究の成果を踏まえ、より多くの人々が運動や身体活動の不足を未然に防ぐとともに、今まで以上に運動や身体活動を促進することが求められます。
そのような状況を踏まえ、世界保健機関は「健康のための身体活動に関する国際勧告(Global Recommendations on Physical Activity for Health, 2010)」を発表し、非感染性疾患を予防するために必要な身体活動の頻度、継続時間、強度、種類、および総身体活動量などを詳細に示しています。そして、この勧告では身体活動の普及啓発や非感染性疾患の予防に関する世界的な働きかけの必要性を強く指摘しています。また、これに連動して、国際身体活動公衆衛生会議(International Congress on Physical Activity and Public Health, 2010)において「身体活動のトロント憲章」を採択し、運動や身体活動の不足を解消し、今まで以上に運動や身体活動を促進することを世界的規模で呼びかけています。
このような運動および身体活動と公衆衛生に関する国際状況を踏まえ、我が国では2013年から第4次国民健康づくり対策(健康日本21(第二次))がスタートするとともに、「健康づくりのための身体活動基準2013・身体活動指針(アクティブガイド)」が策定されました。これらの政策や指針の策定や改定が数多くの運動疫学研究の成果に基づいてなされていることから、今後運動疫学研究に対する期待がますます高まるものと考えられます。特に今後は、身体活動の不足や座位行動と健康障害に関する研究など、より幅の広い運動疫学研究が求められると考えられます。そして何よりも、それらの研究成果を疾病予防・健康の維持増進・老化予防といった現代の公衆衛生上の最大課題の解決につなげるためのポピュレーション・アプローチに関する研究や活動が極めて重要となります。
以上のような国内・外の運動疫学分野の状況を踏まえ、これまでの「運動疫学研究会」は以下の目的を達成するために発展的に解散し、新たに「日本運動疫学会」を設立します。その目的としては、第一に、我が国における運動および身体活動と健康に関連する研究をさらに発展させます。第二に、運動疫学研究者の育成環境および支援環境を充実させます。第三に、これらの研究成果を社会に還元するために、運動および身体活動の促進に対する包括的な国家政策の策定および行動計画の実施を積極的に支援します。第四に、日本体力医学会や日本公衆衛生学会などの関連学会との連携を密にして、健康関連分野のみならず、スポーツ・交通・都市計画分野などの行政機関、研究機関といった多くの関係者とのネットワークを構築し、国民の身体活動促進のための活動に寄与します。
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